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東京高等裁判所 昭和54年(う)623号 判決 1981年4月08日

被告人 株式会社大昭商事 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人安徹、同江橋湖三郎連名作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官藤岡晋作成名義の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用するが、右控訴趣意に対し訴訟記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調の結果をも加えて検討し、次のとおり判断する。

控訴趣意第一及び第二(事実の誤認の主張)について

所論は、要するに、原判決は、被告人株式会社大昭商事(以下被告会社という。)がかねて地主数名より買い受けた茨城県東茨城郡茨城町大戸字神宮寺三三三〇番ほか一二筆の山林(公簿面積合計四万一五二七平方メートル、以下本件土地という。)を昭和不動産株式会社(以下昭和不動産という。)に販売して得た売上代金は、昭和四八年七月三一日を終了の日とする原判示事業年度の益金に帰属する旨判断し、その根拠の一つとして、被告会社が本件土地の売買契約当時すでに本件土地全部を地主より買い受け、その所有権を取得していたことを挙げているけれども、本件土地のうち、根矢もん及び黒田勇から被告会社が買い受けた土地の各一部は、現況が農地であるのに、農地法による県知事の許可を受けていなかつたのであるから、これらの土地の所有権が右両名から被告会社に移転するいわれがなく、この点において原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。

そこで、検討すると、関係証拠に照らしても、被告会社が右黒田勇から買い受けた土地のうちに現況農地の部分があつたことは認めることができないけれども、根矢もんの検察官に対する供述調書その他関係証拠によれば、根矢もんから買い受けた土地の一部(代替地四反歩に対応する部分)の現況が農地であつたこと、そして右農地部分について農地法の定める県知事の許可を受けていなかつたことが認められるから、右農地部分については、現況が非農地に変らないかぎり、売買契約の効力が生ぜず、その所有権が根矢もんから被告会社に移転しないものといわねばならない。したがつて、この点に関する原判示に誤りがあることは所論のとおりである。しかし、原判決の右判示は、被告会社が、昭和不動産に対し、契約時に内金受領と同時に全土地について所有権移転の仮登記手続をすると定められた契約条項にもかかわらず、現実には本件土地の一部についてのみ所有権移転の本登記をしたのは、右契約日当時被告会社において本件土地全部の所有権を取得していなかつたためでなく、代替地を提供する約束の履行が遅れ、関係地主に登記書類の交付を拒まれていたためである旨を説示するさいになされたものであり、原判決は、右説示に引き続き、昭和不動産との売買契約による売上金が原判示事業年度の益金に計上されるべきである理由を詳細に示しているのであつて、右判示に照らせば、本件土地のうち、現況農地の部分の所有権が被告会社に移つていたか否かの点は、原判断の結論を左右するものとは考えられないから、原判決の右誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。論旨は理由がない。

控訴趣意第一及び第三(事実の誤認及び法令適用の誤りの主張)について

所論は、要するに、原判決は、被告会社が本件土地を昭和不動産に売り渡して得た売上金の収益計上時期を本件土地の一部の引渡しがあつたに過ぎない契約成立の時である旨判示し、本件の場合にいわゆるたな卸資産の販売収益に関する引渡基準の原則によらなくともよい理由として、被告会社が確定申告にあたり本件土地売上金の全額を原判示事業年度の益金としてみずから計上していたこと、及び本件土地の売買契約成立の時に本件土地の大半の引渡しが終了し、残余の土地もその二〇日後には引き渡される予定で、残代金の支払いも確実であつたことを挙げているけれども、本件について右のような確定申告がなされたのは、被告会社の顧問税理士が本件取引の実体に即して七月二〇日付売買と八月一〇日付売買との二度に分けて収入の計上をすべきところ、契約書のみを見て判断した誤解に基づくものであり、また、契約成立の時に本件土地の大半が引き渡されたというのは過大な評価であつて、右の土地に対応する内金の比率は全代金額の三九・三九パーセントに過ぎず、しかも、不動産取引では経済的収益が実現するのは登記の時と解すべきであるのに、本件の場合は契約成立の時点では未登記分の土地の所有権移転登記が確実にされる見込もなかつたのであり、かつ、被告会社は本件土地の販売に引きつづき隣接土地の買収計画を進めていたのであつて、このような被告会社の継続性のある営業の流れを見れば、収益を次期に発生させるほうが企業会計の処理として合理的であることから考えても、原判決の収益計上時期に関する判断には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認及び法令の解釈適用の誤りがあるというのである。

そこで、検討すると、(証拠略)によれば、被告会社では本件土地を昭和不動産に売り渡して得た代金の内金及び売掛金を原判示事業年度の収入として計上する会計処理をしていたところ、被告会社の顧問税理士樫村重友が右会計処理を妥当と認め、これに基づき、右内金及び売掛金を同事業年度の益金に計上した内容の法人税確定申告書を作成して提出したのであり、しかも、そのさい被告会社の実質上の経営者である被告人木村一男と十分連絡をとり、同被告人もあらかじめみずから確定申告書を検討して、その内容を承知していたことが認められるから、同被告人も右収入が同事業年度の益金とすべきことを認識していたものと認められる。また、関係証拠によれば、被告会社は、かねて本件土地を含む茨城町大戸の山林約一〇〇〇アールの宅地造成を計画し、昭和四八年三月から四月にかけて順次本件土地を地主九名から買い受ける契約を結び、同年六月までにほとんど代金全額を支払い、一部代替地提供の履行を残す黒田勇及び根矢もん以外からは所有権移転登記に必要な書類を受領していたこと、一部現況農地である土地の売主である右根矢もんも、契約成立の時から被告会社の宅地造成の着手を容認し、何時でも右宅地造成工事を開始することができるよう補償料を受領して同年の夏の作付を中止していたこと、被告会社において同年六月ごろ本件土地に立ち入り、立木等の伐採伐根の荒整地や「明光台団地建設用地」の看板、現場事務所の建設をしたこと、しかも、被告会社の右のような措置に対してどの地主からも異議が述べられていないことが認められるから、被告会社は、昭和不動産に本件土地を売り渡す前にすでにこれを使用収益できる状態にあり、地主から事実上本件土地全部の引渡しを受けていたものと認めることができる。更に、関係証拠によれば、被告会社は、同年七月二〇日昭和不動産との間に一括して本件土地を代金三億三〇〇〇万円で売る契約を結び、同日内金一億三〇〇〇万円を受領したこと、契約書には同年八月一〇日に残代金を支払うとともに所有権移転の本登記手続をするとの条項のほか、内金受領日に本件土地全部の引渡しと所有権移転の仮登記手続をするとの条項があつたが、別途の合意により、このうち、仮登記は一部登記書類が整わないため行われず、かえつて契約成立の日に本件土地のうち公簿面積で五三パーセントに相当する土地について登記書類が交付され、翌日二一日所有権移転の本登記が行われたことが認められ、一方、本件土地全部の宅地造成工事は、昭和不動産から間接に発注を受けていた大昭工業株式会社が本件土地の売買契約後直ちにこれを実施する手筈になつていて、本件土地の売買に伴う被告会社の昭和不動産に対する本件土地の引渡しは、事実上直接大昭工業株式会社に対して行なわれたことが認められる。このように、本件土地について売買契約が結ばれたうえ、代金総額の四割弱の内金支払いがあり、半分を超える部分の所有権移転本登記がなされるとともに全部の土地が直接宅地造成工事を請負う会社に引渡されるなど、契約の履行が進捗したばかりでなく、約二〇日後の残金支払いその他残余の相互の債務履行に特段の支障の生じるおそれも認められなかつた本件においては、被告会社の本件土地販売による売上金は、売掛金を含めてその全額について、本件土地の売買契約成立の時点で、その収入の原因となる権利が税法上確定したと認めるべきであり、その時点で所得の実現があつたものとし、その日の属する原判示事業年度の益金に帰属すると解するのが相当であるから、原判決の結論は正当としてこれを肯認することができる。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀江一夫 杉山英巳 浜井一夫)

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